三輪美幸
行政書士法人GOALのVISAチームリーダー。これまでの豊富なビザ申請経験をもとに、日本で暮らしたい外国人の皆様向けに、日々のお困りごとを解決できるよう寄り添った記事を執筆するよう心がけています!
[身分系ビザ]
目次
帰化申請とは、外国籍の方が日本の国籍を取得するために法務大臣に対して許可を求める手続きのことです。許可が下りると、生まれ持った国籍を離脱し、日本人として新たな戸籍が作られます。
これにより、選挙権をはじめとする日本国民としての権利を得られるようになりますが、申請には多くの書類と時間を要し、法律で定められた複数の要件を満たさなければなりません。帰化は永住権とは異なり、国籍そのものを変更する重大な手続きであるため、申請にあたっては内容を十分に理解しておく必要があります。
本記事では、外国人の帰化申請とは何か、わかりやすく解説していきます。
帰化とは、その国の国籍を持たない人が、自らの意思で国籍の取得を申請する制度です。日本における帰化は、国籍法に基づき法務大臣の許可を得ることで日本国籍を取得する手続きを指します。
これにより、元の国籍を喪失し、法律上日本人として扱われるようになります。永住権が在留資格の一種であるのに対し、帰化は国籍そのものを変更する点で根本的に異なります。
帰化と永住権の最も大きな違いは、国籍の変更を伴うか否かです。帰化は日本国籍を取得し、法律上日本人になる手続きであり、元の国籍は失われます。これにより日本のパスポートが取得でき、選挙権や被選挙権といった参政権も得られます。
一方、永住権は外国籍のまま日本に永住できる権利であり、在留資格の一種です。参政権はなく、海外へ出国する際には再入国許可が必要になるなど、日本人とは異なります。また、永住権は重大な犯罪を犯した場合などに取り消される可能性がありますが、帰化によって得た日本国籍が後から剥奪されることはありません。
永住権と帰化申請は全く異なる手続きであることを十分に理解する必要があります。
帰化によって日本国籍を取得すると、日本人と全く同じ権利と義務を持つことになります。
・日本のパスポートが発給され、多くの国へビザなしで渡航できるようになる
・選挙権や被選挙権といった参政権が得られ、国の政治に参加できる
・社会的信用が高まることで、住宅ローンや事業融資などが利用しやすくなる傾向がある
また、在留資格の更新手続きが一切不要となり、活動内容に制限がなくなるため、職業選択の自由度も高まります。さらに、親族を呼び寄せる際の身元保証人にもなれるなど、生活全般において安定性が増します。
帰化申請における最大の注意点は、元の国籍を喪失することです。日本は二重国籍を認めていないため、帰化が許可されると、これまでの国籍は失われます。これにより、母国へ帰る際にビザの取得が必要になったり、滞在期間に制限が設けられたりする場合があります。
また、母国での相続手続きや財産権に影響が出る可能性も考慮しなければなりません。帰化申請自体も、膨大な量の書類収集や作成が必要で、法務局での事前相談から許可が下りるまで1年以上の期間を要することが一般的です。すべての要件を満たしていても、最終的に不許可となる可能性もゼロではありません。
日本の国籍法では、帰化を申請する人の状況に応じて3つの種類が定められています。
普通帰化は、日本に特別な関係を持たない外国籍の方が日本国籍を取得する際に適用される、最も一般的な手続きです。国籍法第5条に定められた複数の条件をすべて満たす必要があり、居住期間や年齢、素行、生計、そして重国籍防止に関する要件などが詳細に規定されています。
例えば、引き続き5年以上日本に住所を有していること、20歳以上で本国法によっても成人に達していることなどが求められます。これらの条件は、日本社会への適応性や帰化への意思を総合的に判断するために設定されており、一つでも満たさない点があると不許可になる可能性があります。
簡易帰化は、申請者が日本と特別な関係を有する場合に、普通帰化の要件の一部が緩和される制度です。国籍法第6条では、日本人の配偶者である場合や、日本で生まれた者、あるいは日本人の子である場合など、申請者の出自や身分関係によって、普通帰化の要件である住所条件、能力条件、生計条件などが免除または緩和されると定められています。
例えば、日本人の配偶者として帰化を申請する場合、通常5年以上必要な住所条件が「引き続き3年以上日本に住所を有し、かつ、現に日本に住所を有する」ことで満たされるなど、要件が大幅に緩和されます。また、日本で生まれ、出生のときから引き続き3年以上日本に住所を有し、または父もしくは母が日本で生まれた者である場合も、同様に住所条件が緩和されます。これは、日本とのつながりが深いとみなされるため、普通帰化よりも申請のハードルが低く設定されているためです。具体的には、日本人の配偶者、日本人の子、日本で生まれた者、日本人の養子、元日本人などが簡易帰化の対象となります。
大帰化とは、国籍法第9条で定められた、日本に対して特別な功労があった外国人が、国会の承認を経て日本国籍を取得できる、非常に例外的な制度です。この制度の最大の特徴は、一般的な帰化申請である普通帰化に求められる、日本での居住期間、年齢、生計の安定性といった条件を一切満たしていなくても、帰化が許可される可能性がある点にあります。
具体的な「特別の功労」については法律で明確な基準は設けられていませんが、学術、芸術、スポーツ、経済など、多岐にわたる分野で日本に顕著な貢献をしたケースが想定されます。例えば、ノーベル賞受賞レベルの功績や、オリンピックでの金メダル獲得など、日本国の名誉を著しく高めた功績などが挙げられます。
しかし、この大帰化は、日本国憲法が施行されて以来、実際に適用された事例は一度もありません。これは、通常の帰化とは異なり、国会の承認という非常に厳格な手続きが必要となるためです。そのため、一般の外国人がこの大帰化を通じて日本国籍を取得することは、現実的には極めて困難と言えるでしょう。この制度は、あくまで日本国家が特別な裁量をもって国籍を付与するものであり、本人の意思による通常の帰化とは根本的に異なる性質を持っています。
帰化申請は法務局での事前相談から始まり、許可が下りるまでに約1年以上の長期間を要します。
流れを確認しましょう。
帰化申請の第一歩は、ご自身の住所地を管轄する法務局または地方法務局へ行き、事前相談を行うことです。多くの法務局では相談が予約制となっているため、事前に電話などで確認するようにしてください。相談の場では、担当官が申請者の家族構成や在留状況、職業などをヒアリングし、帰化の要件を満たしているかどうかの大まかな見込みを判断してくれます。
そして、その後の手続きの流れや、個別の状況に応じて必要となる書類について詳細な説明を受けられます。この事前相談を経なければ申請手続きに進むことはできないため、非常に重要なステップとなります。
法務局での事前相談を終えたら、担当官から指示された必要書類の収集と作成に移ります。帰化申請に必要な書類は多岐にわたり、申請者の国籍、職業、家族構成などによって異なるため、慎重な準備が求められます。書類に不備があると申請が受理されない可能性があります。
具体的に収集・作成する書類には、本国から取り寄せる「出生証明書」や「婚姻証明書」、日本の役所で取得する「住民票」や「納税証明書」などがあります。本国書類は、国籍証明書、出生証明書、婚姻証明書、親族関係証明書などが一般的です。これらは、申請者の出生や国籍を証明するために必要となります。また、日本での公的な届け出に関する証明書として、出生届や婚姻届、離婚届の記載事項証明書も必要となる場合があります。
自分で作成する書類としては、「帰化の動機書」「履歴書」「生計の概要を記載した書類」「親族の概要を記載した書類」「事業の概要を記載した書類(会社経営者や個人事業主の場合)」などが挙げられます。
このうち「帰化の動機書」は、原則として申請者本人が手書きで作成する必要があり、日本国籍を取得したい理由や日本での生活を通じて感じたことなどを具体的に記述します。履歴書は「その1」と「その2」の2種類があり、出生から現在までの居住歴、学歴、職歴、さらには来日後の出入国歴や技能・資格、賞罰などを時系列に沿って詳細に記載します。これらの作成書類は、他の証明書類と内容に矛盾がないよう注意が必要です。
外国語で記載された書類には、必ずA4サイズの日本語翻訳文を添付しなければなりません。翻訳文には、翻訳者の氏名、住所、翻訳年月日を明記する必要があります。このルールに従わない場合、再作成を指示され、申請期間が延びる原因となるため注意が必要です。
全ての必要書類が揃ったら、いよいよ法務局へ提出し、正式に帰化申請を行います。この申請手続きは原則として申請者本人が法務局へ出向く必要があり、担当官が書類一式を確認して不備がなければ正式に受理されます。申請が受理された後、通常2〜3ヶ月程度で、法務局の担当官との面接が実施されます。この面接は、申請書類に記載された内容の真偽を確認する重要な機会であり、帰化を希望する具体的な動機、日本での生活状況、日本語能力などが質問されます。
例えば、申請書に記載した職歴や家族関係について具体的な質問がなされたり、日本の文化や社会制度についての理解度が問われたりすることもあります。夫婦で帰化申請を行う場合は、一緒に面接を受けることも珍しくありません。面接時に虚偽の回答をしたり、担当官との日本語でのコミュニケーションが著しく困難であると判断されたりすると、その後の審査において不利な影響を及ぼす可能性があります。また、担当官が申請者の自宅や職場を訪問し、生活状況や勤務実態を確認することもありますので、常に正直かつ誠実な対応が求められます。
この面接は、申請者の日本社会への適応性や帰化への真摯な意思を確認するための重要なステップであると言えるでしょう。
申請書類と面接で確認された内容に基づき、法務局は慎重な審査に入ります。この審査期間は、申請者の状況や提出書類の内容によって大きく変動しますが、一般的には申請が正式に受理されてからおよそ8ヶ月から1年程度の期間を要することが多いです。審査の過程では、提出された書類の信憑性や記載内容の正確性を確認するため、法務局の担当官が申請者の自宅や職場を訪問し、生活状況や勤務実態を直接調査することもあります。これは、申請者が日本社会に適応し、安定した生活を送る能力があるかを多角的に評価するためです。
すべての審査が完了し、最終的に法務大臣による許可の決裁が下りると、まず法務局から申請者本人に対して電話でその結果が通知されます。帰化が許可された場合、その旨が国の広報誌である「官報」に掲載され、官報に告示された日をもって正式に日本国籍を取得したことになります。一方で、残念ながら帰化が不許可となった場合は、その事実を伝える文書が申請者へ送付されます。ただし、不許可の理由については、個別の案件における詳細な判断基準に関わるため、具体的に開示されることはありません。この通知をもって、帰化申請の一連のプロセスは完了します。
帰化の許可が官報に告示されたら、それで全ての手続きが完了するわけではありません。許可後の流れについてみていきましょう。
帰化が許可された後、最初に行うべき手続きの一つが「帰化届」の提出です。この届出は、官報に帰化の告示が掲載された日から1ヶ月以内という期限が設けられており、必ず期限内に申請者の住所地を管轄する市区町村役場で行う必要があります。帰化届を提出することで、申請者は日本国民として新しい戸籍が作成されます。
この戸籍には、帰化によって新たに取得した氏名、本籍地、生年月日などが記載され、日本人としての身分が法的に確立されることになります。提出の際には、法務局から交付される帰化許可通知書や、身分を証明できる書類などが必要となりますので、事前に市区町村役場の窓口で必要書類を確認しておくことが大切です。この届出が完了して初めて、申請者は法的に日本人として認められ、今後の様々な行政手続きや社会生活において、日本人としての権利を行使できるようになります。
帰化が許可され、新しい戸籍が作成されたら、次にさまざまな行政手続きや名義変更を行う必要があります。
・在留カードの返納:帰化により日本人となったため、外国籍であることを証明する在留カードは不要となります。官報に告示されてから速やかに、法務省に返納しなければなりません。
・運転免許証やマイナンバーカードの氏名や本籍地の変更:住民票を新しい本籍地と氏名で取得し、それらの書類と合わせて各窓口で手続きを行いましょう。また、パスポートについては、古い外国籍のパスポートは使用できなくなるため、新たに日本国籍のパスポートを申請する必要があります。パスポートの申請には戸籍謄本が必要となるので、忘れずに準備してください。
これらの公的な書類だけでなく、金融機関での銀行口座やクレジットカード、不動産を所有している場合は不動産登記、保険契約、携帯電話の契約など、氏名や国籍が関連するあらゆる名義変更手続きも順次行います。会社員の場合は、勤務先に氏名変更の報告と関連書類の提出が必要です。これらの手続きを滞りなく完了させることで、日本人としての生活基盤が完全に整い、不便なく社会生活を送れるようになります。
帰化は、外国籍の方が日本国籍を取得し、日本人としての権利と義務を得るための法的な手続きです。永住権とは異なり国籍そのものを変更するもので、日本のパスポート取得や参政権の獲得といった多くのメリットがあります。しかし、元の国籍を失うという重大な側面も持ち合わせています。本国の家族にも相談し、慎重に進めるようにしてください。簡単に帰化申請を決断できることではありません。申請手続きは、法務局での事前相談から始まり、膨大な書類の収集・作成、面接、そして長い審査期間を経て許可に至ります。
要件や手続きは複雑で、個人の状況によって大きく異なるため、正確な知識と慎重な準備が不可欠です。専門家である行政書士に相談することで、これらの複雑なプロセスを円滑に進めることが可能になります。